一人でも多く、大切な命を救いたい。
決して断らない、24時間体制の救急医療
香川県出身、岡山大学医学部卒。2015年1月、院長就任。研修医時代を宇治徳洲会病院で過ごし、その後一貫して同院の診察や運営を支えてきた。長年にわたって「断らない救急」の実践を牽引し、2012年の救命救急センター指定などに大きく貢献した。
編集部より・・・
取材中、少しでも不明なところがあるとすぐに自ら確認するなど、終始、真摯な態度で接してくれた院長。間違いがあってはいけないという、救急医療への姿勢が伺えた。
命を救う、 盤石な救急医療体制
京都府随一の「断らない医療」を実践する宇治徳洲会病院。救急・急性期医療をはじめ、災害医療や周産期医療においても地域に欠かせない基幹病院としての地位を築いている。末吉敦院長が掲げる「重症の救急患者さんを決して断らず、全力を挙げて治療をする」という言葉通り、同院の救急医療体制は、京都府内でもまれに見る充実ぶりである。京都市以南で唯一、CT撮影と手術が同時に可能なハイブリッドERや新生児の集中治療室であるNICUを有するなど設備の充実はもちろん、医師の当直体制も盤石だ。例えば夜間診療を行う病院の多くが当直医師1〜2名体制であるのに対し、宇治徳洲会病院では夜間でも常時16〜17名の当直医師が控える。「頭から足の先まで、様々な外傷や疾患がある中で、初療から根治的な緊急治療まで一連の流れで対応しようと思うと、各診療科の体制を充実させなければなりません。また、救急は、1時間に1人ずつ運ばれてくるというようなものではありません。一分一秒を争う救命救急において、その都度医師を呼び出していたのでは間に合いませんから、24時間対応できる体制を整えています」。
生え抜きの医師たちによる救命への思い
毎月の受け入れ断り件数は、0件。現状ほぼ100%受け入れている状態だ。「例えば心肺停止の患者さんが2名いらっしゃって、対応が大変だからと1名断ってしまったら、その方は10km近く離れた他の救命センターまで心臓マッサージを続けながら運ばれることになります。そうすると、助かる命も助かりませんよね。救急医療において、近隣では当院が最も質の高い治療を提供できると自負しておりますので、少し無理をしてでも、最大限受け入れています」。その救命救急への想いはどこから来るのか。「私もそうなんですけども、ここの医師の半数以上が当院で研修医として救急対応を経験し、それぞれ専門医になっていった医師たちです。救急に対する心意気のようなもの受け継いで育った医師たちだからこそ、このような体制が成り立つんだろうと思います」。驚いたのは、仕事をする上で大切にしていることは、と尋ねた時だ。院長は、あっさりと「あんまり無いです」と答え、穏やかに笑うのだ。「それは、例えば毎日ごはんを食べる上で大事にしていることは何ですか、と聞かれるようなものですよ」。救命救急が日常的に身に染み付いているからこそ、出てくる言葉だ。人の命を救う行為に、理由などない。それを改めて感じさせられた。
コロナ禍で露呈した、 京都府における急性期医療の課題
重症患者を受け入れるという使命感は、新型コロナウイルス患者に対しても同様だ。同院では第一波から多数受け入れ、京都府内の重症患者のうち約3分の1の治療を担っているという。「発熱と呼吸苦という2つの症状があると、それだけで断られるケースが多いので、一時は、左京区や右京区といった、普段では考えられないような地域から患者さんが運ばれてきたこともありました。当院は人工呼吸器の数も多く、人工心肺装置「ECMO」の対応も可能です。7人の患者さんに対し看護師1名で対応するという7対1の看護体制もあり当院にはある程度の重症患者さんを診る力がありますが、今回のことで、京都府には集中治療対応の体制がある病院が意外に少ないということがわかりました。現在の急性期医療はチーム体制の時代です。それを整備するためには、600床規模の大きい病院で、200名ほどの医師を抱えるといった、急性期医療の活動拠点のような病院を整備していかないと、今後の医療は成り立たないのではないかと思います」。
常に進化し続ける医療。 情報共有で地域との連携をスムーズに
宇治徳洲会病院の末吉院長といえば、今春、コロナワクチン接種の1瓶7回接種の方法を発見したことでも話題となった。そのニュースが耳目に触れたという人も多いだろう。「きっかけは、当院の職員向けのワクチンが足りなかったことでした。打ちたいと希望しているスタッフに対して、誰を優先して誰を後回しにするかなどと、選別したくなかった。ふと思いついて実験したら、7回分取れたんです」。方法は、こうだ。一般的な注射器では、充填したワクチンの一部が残ってしまい、1瓶で5回分しか取れない。しかし、そのデッドスペースが存在しない、インスリン皮下注射用注射器を使えば、7回分取ることができるのだ。ただし、この注射器は一般的なものと比べ針が短いため、筋肉注射が可能かどうか、一人ひとり皮下脂肪厚を測定する必要がある。そのひと手間がかかるため、現状では職員以外には実施していないとのことだが、ワクチン供給が遅れ気味の現状においては、有益な情報であることは間違いない。 地域の病院や診療所との連携においても、情報共有はとても大切だ。同院では、広報誌の発行や、webでの医療講演も実施している。「医療は日進月歩で進化しているため、スムーズな連携のためには、当院に導入された検査機器や医療内容を正確に知っていただく必要があります。例えば最近では乳がんの検査ができるマンモPET-CTを導入しました。従来のマンモグラフィー検査のように、乳房を挟んだり圧迫したりすることなく検査が行えるので、精神的にも負担が少なく、どんな患者さんにも使えます。検診は自己負担になりますが、早期発見と早期治療につながれば、と。こういった情報を地域の開業医の先生方や一般の方々にお伝えするため、地域医療連携の会は定期的に開催しています」。 熱弁をふるうわけでなく、どちらかといえば淡々と、穏やかな口調でゆっくりと話す院長。しかしそこには、医療に対する熱い思いが込められていた。
名称: | 医療法人徳洲会 宇治徳洲会病院 |
所在地: | 〒611-0041 京都府宇治市槇島町石橋145番 |
電話番号: | 0774-20-1111 |
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